灰塵

2025.07.29



「エナ。あなた、あの場所で誰かから、何か受け取ったわね?」
彼女のまるで太陽のように晴れ晴れとした幼い顔が、嵐を含んだ暗い雲に覆い隠されたみたいに陰る。
ああ……そうなんだ?
ハッタリのつもりだったんだけど。私、どうやら何かを暴いてしまったみたい。

「私。言ったわよね?『とにかく逃げて。そして、この辺りの誰からも、何も受け取らないで』って」
「ごめんなさい……」
「謝ってほしいわけじゃないのよ」
必要以上に怯えさせたくない。それなのに、言葉を紡ぐハンドパペットは鋭く牙を剥いて、仮面の下でも硬い歯がギシギシと軋んで、額には汗が滲んだ。
彼女の瞳が、ふらふらと揺れる。真っ直ぐに垂れた髪も、スッと尖ったその先まで、カタカタと小刻みに震えている。

私は、どうしてこんなに怒っているのだろう。
……そうだ。私は、言葉を何よりも重んじる。
私の言葉を無視して先へ進み、してはいけないことをしたということは、私自身を蔑ろにすることと同義であると思ってしまっているのだ。

「何を受け取ったのかは、深くは聞かないけど」
もしかして……ムーニィ、かしら?

彼女の親友の名を口にした瞬間、彼女の真っ青な頬の色が濃くなって、そこにあるはずのない赤みさえ感じた。
うぅ。まるで獣のような、低く、雑音を多く含んだ唸り声は、私の喉の奥から絞り出されたものだった。
苛々して、耐えられなくて、彼女の後ろにそびえ立つ壁をガッと音を立てて蹴った。

「なぜ!なぜ!?全てをあなたの言葉で言おうとしないの!?言葉が、通じないの!?」
苛々する。自分じゃどうにもならないわ。

目の前の少女は今、あの場所よりずっとずっと広くて安全な場所にいるのに、あの場所で見せていた軽い足取りが嘘みたいに……膝をわなわなと震わせて立ちすくんでいる。

……分かってる。こんなにも腹立たしいのは、友達であるこの子に、友達以上の感情を抱いているからだった。


私は普段、考えを白黒はっきりさせるタイプではある。
でも、エナ。あなたに関してだけ言えば、私ははっきりと決められない。白と黒の、その中間。灰色だった。

あなたの親友を蹴散らしてまであなたと一緒になりたいかといえば、それは違う。苦しくて、いっそのこと友達すらやめてしまおうかと思えば、それも違う。あなたに想いがばれてしまわないようにしたい。でも、友達以上に愛したい、愛されたい。そんな自分のエゴが邪魔をする。身体言語を紡ぐ体が鉛のように重たく動かなくなる。
怒りの赤。嫉妬の緑。悲しみの青。
いつも私の脳内を塗り潰すのは、RGBの値が全て均一な、昏い灰色だった。


「親友と、あの場所を出て、それから?」
ムーニィと、何かした?

激しい気性が、嘘みたいに落ち着いてきた。RGBの値が、等しくゼロに近付いていくみたいだと思った。
彼女がびくびくと肩を震わせるたびに、ドロドロとした黒い感情がひしめき出すのだ。

私は、エナが好き。大好き。愛してる。
全部欲しい。乱暴したい。引っかき回したい。
もういっそのこと、真っ黒でいい。

「ねえ、教えてよ。自分の口で語れないの?私が怖くて何も話せないの?親友と、一体どんなことをしたのか……。あなたの体に、直接訊くしかないのかな?」

あなたはなぜだか、世界から嫌われている。でも、まだ誰からも酷い目に遭わされたことはないでしょう?
私だけよ。あなたを手酷く扱ってあげるのは。

仮面をずらして鋭い歯を見せると、彼女は強ばった目でそれを凝視した。
ねえ。今、あなたは何を考えているの?怖い?痛そう?それとも、好さそう、かしら?

荒い息で乾いた唇を赤い舌で舐めると、彼女がそれを目で追う。それだけで私は、興奮で膝から崩れ落ちそうになる。

エナ。あなたを……頭、胴体、四肢よりもずっと細かくバラバラに壊してしまったらどうしよう。
私、ここまで我を失いそうになったことがないの。



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