Summer Love

2025.02.19



「お前にとっての『夏の色』って、どんな色?」
争いばかりの世紀末だってのに、バカみたいに平和惚けした話題を振ってしまった。どうしても、奴に聞いてみたくて。
「『夏の色』ね……。もちろん、これだろ」
俺を笑うこともせず、奴は自分の爽やかな色の長い髪を手櫛で梳いて、ニヒルな笑顔を見せてくれる。 「視界に入るだけで涼しく感じる。気に入ってるよ」

もし、そこらへんの同じような格好をした男どもに『夏の色』を聞いて回ったとして、みんなそれぞれ違う色を語るだろう。空の青。太陽の白。朝焼けの赤。夜更けの紫。乾いた地面の茶色。他にも、いろいろ。人の数だけ、各々が感じる『夏の色』がある。ありったけのエロ本を集めて、毎晩酒を飲んで、好き勝手に暴れて、いい加減に生きる。そんな安直なクソ野郎どもであっても。それだけ、夏から感じられるものはたくさんあるのだと俺は思う。

そしてこれが、他でもない……お前にとっての『夏の色』か。
俺ももちろん、この色が好きだ。
暑苦しい色がごちゃつく夏の景色の中でも、すぐに目に留まる派手な色。自然の中じゃ滅多にお目にかかれない奇抜な色だ。
そっと指先で触れ、関節をゆっくりと曲げていき、その色を手の中に閉じ込める。世紀末にあるまじきサラサラ加減だ。夏の色んな色が反射して、薄く映ってる。透き通った川のせせらぎみてえだ。

染髪剤ってこの世界にどのくらい残ってんのかな。コイツみたいな強大な権力を持ったモノ好きが独り占めしたりなんかしてたら、いつかすっかりなくなっちまうかも。
いつもどんなタイミングで染め直してんだろ。つむじからじりじりと元の色が戻ってきて、そのたびにうんざりしたりしねえのかな。俺だったら絶対ストレスでハゲ散らかしてると思う。

「お前、元々何色なの。髪」
「黒だよ」
「黒!?マジかよ!?」
ブリーチまでしなきゃなんねえのか。手間やば。

黒髪……。正直、見たい。黒に戻さねえのかな。言えば意外とやってくれそうではある。でも、黒髪のコイツを一目見ちまったら、もう他の色に染めてほしくなくなるかも。絶対に綺麗だもん。

……ていうか俺たち、シンディロードの崖っぷちに並んで座って、何をイチャコラやってんだろ。

部下。物資取引のお得意先。仲の良い他のウォーロード。
コイツを慕う奴らは山ほどいるはずなのに、いつもコイツは真っ先に俺のとこに来てくれる。
こんな、いいのか。俺なんかがコイツを、好きにできて……。

奴のハンサムな顔を改めてじっと見てみる。
「な、なんだよ。シンディ」
そういやコイツ、髪と同じように眉毛もしっかり染めてるから忘れがちだったけど、睫毛とかはちゃんと黒いんだな。
シモの毛とかも黒いのかな。いや、ツルツルに剃ってるのかな。コイツって、誰かとエロいことしたことあんのかな。したことあるとしたら、なんか凄く嫌だな。
クソみたいに暑いからか、俺はちょっとヘンなことを考えて始めてる。

「おいちょっと、近い!暑苦しいぞ!」
ふーん。ドキドキする、とかじゃねえんだ。どうしたらドキドキしてくれんのかな。
「軍服きっちり着込んでるお前のが暑苦しいよ、ダイス。ジャケットくらい脱いだら?」
なんか俺、マジでヘンだ。頭がクラクラしてきた。体の内側で炎がバチバチ燃えてるみたいに熱い。お前のせいで。
もうダメかも。逃げ腰になっている奴のジャケットの胸ぐらをぐっと乱暴に掴んだ。
「わっ!?何すんだ!?」
奴は、勢いよく立ち上がったかと思えば、足元がおぼつかないまま大きくバランスを崩し、ぐらりと傾きかけた。

あぶなッ……!ここ、崖っぷち……!

「あぶねぇ~……」
気付けば俺は必死で奴の手首を掴み、腰に手を添えて止めていた。間一髪だった。
もしコイツが今日に限ってあのふざけた肩パッドを付けてたりなんかしたら、俺の体のどこかしらにあの金ピカの鋭いトゲが刺さってただろう。まあそうなったとしても、絶対この手は離さなかっただろうけど。

あ。
俺の手の中の細い手首から、速い脈を感じる。コイツ、ドキドキしてる。でも、こういう形でドキドキさせたくはなかったな。

手首を握ったまま、腰を支えて引き上げる。コイツ、腰も細えな。
奴が骨張った手首をモグラみたいにぐりぐり動かして逃げようとするので、その薄い手のひらをしっかり、ガシッと掴み直した。
「おお!……この体勢、まるでダンスしてるみたいだな!」
すげえなコイツ。死にかけたってのに。やっぱり俺の次に強いだけあって切り替えが早い。
……俺と、ワルツ?とかいうのでも踊るか?こんな、終わった世界の端っこで。

腰に添えた手の中に長い髪を軽くくしゃりと掻き集めると、シャープに尖った顎が俺に向かってクッとせり上がった。
口元の黒子と一緒に薄い唇が何か言いたげに動くのを見ながら、そこに吸い込まれるようにキスをした。

コイツとのキスは俺にとって、酒や煙草よりも効く。甘味なんて感じないはずなのになぜか甘くて、なんか……クるものがある。
目を閉じると瞼の裏の血潮が透けて、濃いオレンジがギラギラと眩しい。そっか。これも、『夏の色』だ。
野郎同士のキスなんてむさ苦しいだけのはずなのに、何度も噛み付くように口づければ、俺の全てが生き返っていくような感じがしてしまう。新鮮な生命の息吹を肺いっぱいに吸い込むかのように、確かにお互いがここで生きているのを感じる。
この唇を離したくない。お前を離したくない。ずっと、ずっとこうしていたい。

なあ。俺、いつも何度でも、この『夏の色』を真っ先に見つけるから。
お前だけは、この世界の残酷な色に、いつまでも塗り潰されないでいてくれ。



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